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薄荷色の恋 2


 ザザーっと船首が海を切り裂いて、波が悲鳴のように耳を覆う。潮風が顔にぶつかって、熱を奪うように通り過ぎていった。
 なんか長い1日だったよな。
 密航して、見つかったと思ったら襲われて、ヴォルフラムが死んだかと思ったら、海が燃えてギュンターがストリップして、オレはターザンなヨザックとこんな船にいるし。それでもって男二人で海なんか眺めている。
 コンラッドが
 と、そこでオレの思考が自主的に止まった。上を向くと、空がうっすらとあかね色に変わっている。まだ青い色が多いけど、太陽が空を焦げ付かせてわずかにオレンジと赤い色が混じっていた。
 青とオレンジが混ざり合って、どうしてこんなにキレイな色になるんだかオレは未だに不思議。だって絵の具で混ぜたら、絶対に違う色になるのに。
 だって、絶対にキレイじゃない。生きていてくれて嬉しいって気持ちとあの顔を見たときの胸に覚える痛みは、絶対にこんな空みたいにはならないように。
 「あ、そーだ。ぼっちゃん」
 そう言って、ヨザックがオレの口元になにかを差し出した。
 「はいvあーん」
 これがツェリ様だったら嬉しか…いやいや、ヨザックの気遣いにオレはありがたく口を開けた。
 「メシの時間までまだありますからね、コレで我慢してくださいね」
 そう言ってヨザックは自分の口にもなにか放り込んだ。
 固いものが歯に当たって、転がるとゆっくり溶けて口の中に涼しい味が広がる。懐かしい味がした。地球でもよくあるヤツ。こっちで食べるのは2度目で。
 ─それはよかったです。
 まだ一年も経っていないのに、前に食べたあの日は遠い。
 「あー…」
 口の中に広がる味が外に出ていくように祈りながら、オレは息を盛大に吐いた。鼻に潮風がしみたような痛みがして、目が風に敏感になる。
 あ、ヤベッ。
 オレは慌てて立ち上がって上を向いた。
 「どーしたんですか?ぼっちゃん」
 突然立ち上がったオレをヨザックが心配そうに見ているんだろうと思ったけど、オレはじわじわとあかね色に染まってゆく空だけを見ていた。
 あめ玉って甘いのに、なんでこれだけ辛いんだよ。ものすごく合わない。
 慌ただしく歩く船員の足音が少し離れたところから聞こえてくる。ホントになんでオレってばこんなところにいるんだろ?
 さっき見た遠く離れた光景が頭にちらつく。
 ─お護りいたしましょう。わたしの力の及ぶ限り。
 誰にも言ってんのかよ、その台詞。そんなこと言って寒いギャグかましたら、どんな王でもひくからな。オレはこのあめ玉みたいな男に思いつく限りの悪態をついてみた。
 「ぼっちゃん?」
 「いや、実はさ。オレ、この味舐めると辛くて、涙でそうになるんだよ」
 「…そりゃ失礼いたしました」
 いや、ホントに苦手。
 飴が口の中でちよっとずつ小さくなるにつれて、丸い雲が溶けて歪んでいく。空がいよいよ焦げてあかね色になりきるまで、ずっと見上げていた。


-終-

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