今日からネのつく自由業?7(余話2)


 ゆっくりと熱がひいてゆく中、夜明け前の部屋の中に穏やかな静けさが流れていた。もうすぐ太陽がこの甘い時間に終わりを告げるように昇る。その前に訪れる薄いベールを被ったような青い時間をコンラートと有利は寄り添って過ごしていた。
 「しかし、女の子になる方に落ちなくてよかったよ…」
 「なぜです?」
 「スカートってスースーして落ち着かないし。しかも体が女の子なんだよ?!未知との遭遇だよ…なんだよ、笑うなよな」
 コンラートは思わず、吹き出した。ものすごく複雑な命題にでもぶちあたったかのような顔をした恋人の額に、なだめるようにキスをする。
 「でも、きっと女の子になってもかわいいでしょうね。ユーリは」
 「…そんなこと言われても全然嬉しくないね。第一、かわいいとか言うな」
 むすっと顔を膨らませて拗ねてしまった。
 しかし、見てみたいかもしれない。ちょっと好奇心をくすぐられる。今の彼になんの不満もないが、女性だったらどうなっていただろうか?
 今と変わらないかもしれない。きっとこの腕の中に閉じこめているに違いない。唯一の違いは、子どもが生まれる可能性があることだけだ。もし生まれてきたら、きっとユーリに似たかわいい子どもになるだろう。
 ありもしない未来を想像して、コンラートは自分の気の早さに呆れた。だが、つい考えてしまう。女性になったユーリはどんな姿だろう。まだあどけなさがところどころに残る今の姿のように、花が開く前の可憐な美しさがあるに違いない。ツェリのような大人の女性がもつ完成された美しさとは違う、少女時代にしかない清々しくてどこか危ういような美しさになるだろう。きっと見る者を振り向かせるような匂い立つ美少女に。
 そうなると困るな…。
 そこまで想像してコンラートは苦笑した。
 「なんだよ…」
 まだ拗ねている恋人の髪をなでながら、コンラートは白状した。
 「あなたが女性になったら、困るなと思ったんです」
 黒い瞳の中に捕らわれたように自分が映っている。コンラートは有利を引き寄せながら、続けた。
 「恋敵が増えたら、困りますからね」
 「なっ、なに言ってんだよっ」
 照れる顔もまたかわいい。まだ甘い体温を捕まえるように口づけると、ぎこちなく応えてくる。照れている唇を舐めると、今度は有利からキスを贈られた。
 「しかし、やはり少し残念です」
 「なんだよ。なにが残念なわけ?」
 「男のロマンとしては、やはりいろいろと」
 「…なんだよ、いろいろって…」
 「ウェディングドレスやハネムーンもしたいですが、究極的には子作りを」
 「はぁッ?!」
 あまりのことに思わず、有利は身を起こした。
 「きっとユーリに似たかわいい子がいっぱい生まれますよ」
 「ちょっと待て。ドレス?…え?!いっぱい?!」
 「がんばれば、家族で野球チームができるかもしれませんね」
 「…コンラート、野球って何人でやるか、判っている?」
 「わかってますよ、9人ですよね。さすがに試合は無理でしょうけど」
 晴れやかな笑顔でそう答えた恋人に、有利は思わず言葉を失う。しらじらと朝日が空を照らして夜が去るころ、有利は生まれて初めて両親に深く感謝した。
 「……………オレ、男に生まれて本当によかった」


−終−

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