ALL you need is love?



 体は指先まで温かいのに、鼻のあたまがちょっぴり寒い。
 ──あ、朝だ。
 体にしみついた感覚で朝がわかる。ものすごく温かいものに守られるようにくるまって、シーツからでていてる髪と顔だけがひんやりと夜のなごりを残していた。ゆっくりと目を開けると、窓際から朝日が部屋の中にこっそりと忍びこんでいる。
 まどろむようにぼんやりとしている有利の後ろで、コンラッドのしずかな寝息が穏やかに流れて耳をくすぐる。夜のなごりはここにもあった。
 昨夜のことが浮かびあがると恥ずかしいような、それでいてくすぐったい気持ちになる。その気持ちごと飲み込むように深呼吸すると、ひんやりとした空気が体の中に入ってきたがすぐに温まった。
 遠くでは小鳥が朝を告げるように鳴いているけれど、この温かさを手放すのはもったいなくて、逃げるようにシーツの中へと潜り込む。
 「ユーリ?」
 背中からゆっくりと抱き寄せられた。ついでに体を反転させてひっつくと頭のあたりでやわらかく微笑む気配がする。
 温かい手がつめたく冷えた髪をなだめるように撫でた。体にくっつけた頬からは温かい体温が伝わる。熱と呼ぶには穏やかで、優しいそれを吸い込むように呼吸すると、体いっぱいに大好きな匂いに包まれた。
 ──あったかいのは頬だけじゃないな。
 体の中にある気持ちごと抱きしめてみた。
 「起きましたか?」
 「まだ」
 「もう、日が昇ってますよ」
 「もうちょっと」
 顔も見なくても、ちゃんと微笑んでいることはわかっている。
 「ギュンターが来るかもしれませんよ?」
 「鍵かかってるんだろ?」
 だっていつもぬかりないじゃんと言うと、「そうでした」と呟くように答えが返ってくる。
 「もうちょっとでいいからさ。このままってダメ?」
 子どもみたいなわがままだと思いながら、有利は頬をすり寄せた。抱き直すように腕が動いて、有利の額にキスが落ちる。
 「もうちょっと、なんて言わずに一日中こうしていたいくらいですよ」
 そう言いながら、耳のあたりをくすぐるようにコンラッドの手が髪を撫でる。それだけで充分温かい気持ちになれるから不思議だ。コンラッドもこの温かさを手放すように起きるのが惜しいと思うと、嬉しさとおかしさで思わず笑ってしまう。
 「くすぐったいですか?」
 その感覚に近いけど、ちょっと違う。首を振って答えると、止まった手がまた動き出した。
 「珍しいですね、こんなに甘えるのは」
 嬉しいですよと、コンラッドは呟いて髪にキスをした。そう言われるとなんだか気恥ずかしくて、有利は顔をコンラッドの体から引きはがした。
 「いや、ほら、だから、つまり…」
 「つまり?」
 「だって、アレじゃん」
 「アレとは?」
 「え〜っと…バレンタイデーなわけで…」
 とってつけたような理由だけど、2パーセントくらいは嘘じゃない。今日は確かに2月14日なのだ…デジアナショックが確かならば。何かするべきかなと思いつつ、だけど男が男にバレンタインってどーよ?という気持ちのまま当日の朝になってしまった。
 「ああ、Valentine's Dayね。じゃあ、ユーリに愛を贈らないといけませんね」
有利の背中をするりと滑り落ちた手が奥へと潜り込む。
 「ちょっと…そーいうつもりじゃ…」
 慌てる口をふさがれて、深くむさぼられると抵抗するようにつっぱらせた腕から力が抜けた。
 「だって、今日は愛を確かめる日ですよ?」
 やっと離れたコンラッドは、いたずらでもするように有利の鼻を軽くついばんだ。
 「いや、ほら、夜さんざん確かめただろ?」
 上目遣いで見上げれば、コンラッドの目は優しいが唇の端が軽く上がっている。
 「夜は有利からの愛をたっぷりもらったから、今度は俺からの愛を贈りますよ」
 ほら、コッチも欲しがっているしねとささやいて、コンラッドの手に反応する有利を強く握った。有利は息を飲み込んで、わき上がる衝動をやり過ごす。
 「夜、たくさんもらったよ」
 「遠慮せずに」
 じんわりと汗ばむ肌からオスの匂いが立ち上がる。咎めるようにコンラッドの腕をつかむが、追い立てられるように熱が生まれる。逃げないように体が押しつけられると、コンラッドの熱がカタチとなって押し当てられる。それだけなのに、求められていると思うと背中から痺れるような感覚が体の力を奪った。コンラッドがシーツの中へと潜るのを引き留める。
 「も、もう日が昇ってるし」
 「まだまだ」
 コンラッドの手が有利の胸元をゆっくりとすべる。
 「んっ………ギュンターが…来るか…もしれないしっ」
 「鍵をしっかりかけてありますよ」
 小さな音を立てて、心臓の上に赤い花を散らす。
 「こ、小鳥も鳴いてるしっ」
 「きっと夜鳴きウグイスですよ」
 そう言うなり、やさしい笑顔のままコンラッドの顔が近づく。軽くなだめるようなキスが静かに深くなる。部屋の中にシーツの乱れる音と時折もれる呼吸だけが流れた。
 「もうちょっとだけ…ね?」
 もはやそれだけですまなそうなのだが、体の熱は消せそうもない。なにがちょっとだよっと、言ってやりたい気持ちとなけなしの意地を総動員して、有利はコンラッドの鎖骨にかみついた。


-END-




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